キーワードはデフレだ。

ソロス氏の再帰理論とは、人間の思考と現実が相互に影響を及ぼし合ってゆく様子を説明したもので、経済においては金融市場市場参加者の思考と実体経済現実の相互作用を扱うものである。例えば、経済成長が株高を生み、株高が経済成長を生むというように、因果関係にループが発生することでトレンドが強化され、バブルやその崩壊などが生じるのである。

彼はそう言っていた。この記事で紹介したように、このインタビューでソロス氏は、中国経済がデフレを世界経済に輸出する話など、デフレにかなり重点を置いて話をしていた。このことは上記のチャートを考えてから思い出したのだが、彼がデフレを重要視していたことを考えれば、恐らくこのチャートは今のソロス氏の相場観にかなり近いはずである。

また、この考え方は同時に世界最大のヘッジファンド、のマネージャー、レイダリオ氏の見解とも一致する。先進国経済は負債の拡大に頼って成長してきたが、金利が下げられなくなると債務の拡大が出来なくなり、したがって現在の世界経済は債務の長期サイクルの終わりに差し掛かっているとダリオ氏は見ている。

問題は、上記のデフレサイクルを止める流れが何も見当たらないことである。デフレが消費の減少を招き、消費の減少がデフレを招く状況では、このトレンドを止める何かが生じない限り状況は悪化し続ける。これがソロス氏の再帰理論である。

量的緩和やマイナス金利を使おうとも、やはり金利はゼロを超えて大きくは下がらない。一方で、人口動態などデフレ側の要因は恒久的であり、これからも成長率に下方圧力を与え続けるだろう。

また、この他にも低成長の原因が需要側にあるのか、供給側にあるのかという点も重要な問題であり、それについては以下の記事で論じた。

国際金融経済分析会合、ジョルゲンソン教授への反論:日本の生産性は低いのか?法人税減税と消費増税は善か?わたしの主張するように原因が需要側にあり、しかも実需を債務増加による公共投資や資産価格の上昇で長年補ってきたのであれば、GDPはいずれ補強分を取り除いた真の数値まで後退しなければならないということになる。それは想像したくない規模のバブル崩壊となる可能性がある。

また、GDPの低下はGDP比政府債務の増加を意味するから、債務は民間と政府の両方で再編される必要があり、政府債務の方の帳消しは既に始まっている。

麻生太郎氏、日銀による財政ファイナンスを肯定:日本の財政破綻問題はどのように解決されるか元イギリス金融庁長官:日銀は財政ファイナンスを続けるべき、ハイパーインフレなど古典的妄想こうした状況がプラスになる資産クラスは、金や米国債である。ソロス氏は米国債を買っていると上記のインタビューで話していた。わたしの最大ポジションは金である。

2016年、リスクオフで金が買われる本当の理由:金価格は2000ドルを目指すとの推移予想は正しいか?また、ソロス氏の投資理論については、始めに書いたように彼の著書ソロスの錬金術にすべて書かれており、上記のチャート作成は彼のやり方にそのまま従ったものである。

個人的に、この本については世間の評価が過小だと言い続けている。ソロス氏ほどのファンドマネージャーが自分の投資手法を丁寧に本にまでして書いているというのに、本当の意味で参考にしている投資家がどれだけいるだろうか?

この本にはソロス氏がプラザ合意を予見して円とドイツマルクを大量に買い込んだ時のトレードの記録と日記さえ含まれており、投資家であれば必見の内容である。