ワイルド7 二次創作 新ワイルド7最終章 〜LEGEND OF THE WILD 7〜 第二章 「ファイヤー・ドラゴン」 ?

ソマリア沖。

自己流に改造した高速艇二隻が海上を切り裂くように疾っている。

二隻とも船首に双眼鏡を構えた海賊が立っている。

「獲物が見えたぞ!!」

一人が指さす方向には、日の丸国旗を掲げる護衛艦が一隻のんびりと海上を進んでいる。

「よォし、もう一度おさらいだ・・・日本のアーミーの武器使用は、警告射撃、正当防衛、緊急避難、武器防護のための武器使用の場合に限定されている。接近してきたり、逃走する海賊船に船体射撃をして、強制停船をさせ拿捕することはできない。また、不審船舶に臨検をしたり、立入検査隊を乗船させることもできない・・・つまり向こうからいきなり撃ってくることはない・・・」

「先手必勝が戦術の基本なのにな!!日本、どんだけ腰抜けなんだよ!?」

「さァ、奇襲プラン?型でやっつけちまおう」

全員、事前に海中に沈めた網のなかの武器を素早く取り出すイメトレをしながら、漁民らしくふるまう演技をしつつ、こちらに向かってくる護衛艦ににこやかに手を振ってみせる。

しかし、全員の目に映ったのは、こちらに向けられる砲口である。

火を吹く76ミリ砲。

あっという間に穴だらけになり、船上にいた海賊たちは肉片となって撒き餌のように海中にバラまかれる。

迂回しながら背後に回り込もうとしていたもう一隻、信じられない光景を目の当たりにし、慌てて海中から網のなかの武器を引き上げようとする。

「バカな・・・!!先に撃ってきやがった!!」

網を引き上げている海賊たちの頭部が順繰りに破裂し、それぞれ海中に落ちたり、船縁にもたれかかったりする。

護衛艦のデッキからひょろ長い体躯の老人が、九七式狙撃銃を手にしているのが見え、見た最後の一人が目を撃ち抜かれて、口径6.5mmの三八式実包、弾頭をダムダム弾に加工した銃弾で頭蓋骨を貫通する際にバラのように咲いて、後頭部を大きく破裂させて絶命した。

「お見事です・・・!!中佐・・・!!」

「ふん、こんな距離じゃ目を瞑ってでも当たるわ。いいか、ほんとうの狙撃とは、二千メートル先の標的を正確に撃ち抜いてこそなのだ。今の貴様らにそれだけの腕を持つ者はおるのか?」

「おりません!!」

「よし、わしが指導してやる。それにはまず、殺しの経験を積むことだ。これから貴様らは海賊どもを殺して殺しまくるのだ。陸(おか)に上がって本拠地へ攻め入っても、女子供を含めて躊躇せず殺戮せよ。そうして精神を血で洗え。その先に冷徹にして正確な狙撃の腕が待っている・・・」

「はっ!!」

警察病院。

元上司である成沢の病室を車椅子に乗った草波が訪れる。

車椅子を押してくれた看護師が部屋を出ていくと、草波、自分で車椅子を動かしてドアに鍵をかける。

「もう洗いざらい喋った・・・もう半年経つが私はまだ生きている・・・英(はなぶさ)機関は私を殺すことは止めてくれたのだろうか?」と成沢。続けて「それともワイルドが暗殺者を返り討ちにしてくれたのか?」

「飛葉たちはグルジアですよ」と草波。「だから、暗殺は取り消されたのが正解でしょうな。実際、あなたの証言はすべて価値のないものでした」

「そんなバカな・・・英機関の極秘名簿までキミに渡したんだぞ・・・!!機関員の氏名は身元割り出しに大いに役立つはずだ・・・!!」

「元々本名で機関に参加していなかったわけです。しかも・・・」そこで草波、車椅子からグッと身を乗り出し、ベッドの上の成沢の顔を覗き込む。

「かつて皇軍には外人部隊が存在していた・・・フランス外人部隊のようなね・・・当時、大日本帝国の軍隊は、召集令状で各地から若者を集めても大した戦力にはならなかった。人海戦術は尽き、残りは特攻に充てるしかないという悲惨な状況のなか、英機関は屈強な兵士の質を保つために、外人部隊を創設したのです。ロシア革命ロシア帝国を追われた元軍人もいましたし、蒋介石の下で活躍した中国人兵士もいました。本拠地は満州国。部隊の性質上、正確な身元は一切不問。必要なのは天皇陛下及び大日本帝国への忠誠のみ。

英機関の諜報員だったあなたは・・・外人部隊のことは知らなかったのですか?」

「外国人を雇って諜報活動を行ったことはあったが・・・部隊のことまでは・・・」

「それがあなたが殺されない理由です。ほんとうに何も知らないわけですからね・・・でも、あなたは今日殺されます」

「何・・・だって?」

「暗殺者は差し向けられませんが、あなたはずっと監視されている・・・その目の位置はさすがに私も把握しかねますが、監視している連中の目の前であなたが死ねば、敵も動く・・・そこで価値が生まれるわけです」

「キミは恩人である私を殺すのか・・・?」

「恩は十分すぎるほど返しました。秘熊政権時代にね・・・あの時ワイルドを裏切ったのが十分すぎるほどの恩返しでしたよ・・・」

「待て・・・!!草波くん・・・!!」

そこで、カーテンを閉め切った窓からビシッと音が響き、薄暗くした部屋に一筋の光線が差し込む。

穴が開いたカーテン、窓ガラスの向こう、遙か向こうから狙撃されて、成沢は後頭部から眉間を撃ち抜かれて、ベッドの上に前のめりになって絶命していた。

「さすがだ・・・“THE NIGHT(夜)”・・・盲目なのにこれだけ正確に撃てるとはな・・・」

草波、バックして向きを変えると、鍵を開けて看護師たちを大声で呼ぶ。

狙撃手、“THE NIGHT”は、スコープを覗いていなかった。

そもそも、狙撃銃のKarabiner98kにはスコープはついておらず、代わりに検知アンテナがついており、黒い髪の間からのぞく耳には高性能イヤホンがついていた。

何も見ていない両目は白く濁っていたが、脳内では正確に、耳から入る音源の情報を元に、事前に草波から得た成沢の声色から、標的の位置が描かれていた。

その位置に向かって、闇の中を引き金を引いただけである。

7.92mmの銃弾を発射する銃身は現代の技術で高性能化され、通常の射程距離である五百メートルを二千メートルにまで伸ばしていた。

警察病院から、“THE NIGHT”のいるコンサート会場の屋上までは実に千五百メートルであった。

そして、“THE NIGHT”は女であった。

素早くライフルを分解して、トランクケースにしまうと、控え室に戻り、髪をくしけずり、ドレスに着替えて、バイオリンを持って舞台に出て、盛大に拍手と歓声を浴びて一礼しつつ、バイオリンをライフルと同じように構えて弾き始めた・・・

盲目のバイオリニスト、神林瑠衣子・・・草波が雇い入れたワイルド傭兵の一人である。

グルジア

教会に運び込まれたクロスの死体を取り囲んで、押し黙っている飛葉たち。

「ウソだろ・・・クロスがこんなザマでくたばっちまうなんて・・・」と天田。

携帯で誰かと話している画竜。

話し終わって、携帯を切り、画竜、飛葉に歩み寄ってそっと囁く。

「Cポイントにケルンの騎士が到着したと・・・予定通りに向かわないとナ・・・」

「分かった。クロスはここに・・・みんな行くぞ!!」

クロスを欠いて六人。

全員が電動バイクに乗り、グルジア兵たちと稲本さんが見送るなか、教会を出発する。